寿限無だより

本来の自分(2)二つの顔
(ここからは半フィクションです。)
《仮面の下に、こんな怖い顔があって、ソレが自分の顔だと里子は言った。ナント、まぁ、かわゆい、、、!》
ソノ時はそう感じただけ。けれども、人は全て、仮面をつけ、その内側ではこんなに醜い顔睨んでいるのに気付いたのは、その数年後になってからでした。そのまた数年後にやっと、本来の自分、静かな喜びのみなぎる美しい自分を感じ始めるようになるのです。
先に言っておきますが、本来の自分はみな、ほのぼのと暖かい冬の陽ざしです。宮沢賢治の童話の登場人物です。透き通った風、青空にもっこり居ならぶ山々です。どんぐり童の歌声です。
この話は後にして、ここでは、グッゲンハイムに戻りましょう。
もちろん、里子は、特別の化け物なんかではありません。ニューヨークに20年以上もいるせいか、ハイセンスな洋装に、アクセサリーのつけ方が抜群の妙をそえていて、化粧は自然で控えめ。コレが彼女の仮面だというのでしょうか?!
魔法にかけられたように、里子は今、その絵の前で放心状態。ソレが、にわかに、今目覚めたばかりのように、目を2、3度しばたくと、あどけない調子で話し始めます。
「私ね、いつも仮面をかぶっているの」
「ふうーん、仮面ねぇ」(私)
「とくにお花の生徒さんの前ではね」
ニューヨークには駐在で来ていた里子は、夫の暴力に耐えかねて決別。お花の先生をしながら、なんとか生計をたてています。
「私ってね、優雅な生活をしているように見えるらしいの‥。前夫がね、贅沢三昧だったから‥、高級家具に、ほら、私の住んでるコンド。夫からもらったのはそれだけ、、。でも、お金はないの、、、」
全身を耳にする私。
「本当の顔はヒドクて見せられない。アレよ、アレ。怪物!やっかみ怪物よ」
意味ありげなそのコメントと、ハンサムなビルの顔が、なぜか、つながった。
離婚前にめぐり合ってしまった運命の男、ビル。その彼に一目惚れした瞬間、里子のローラーコースターは猛スピードで動き出し、2番目の人生が展開していきます。
「アナタの前でも仮面をつけてたけど、もうダメ。実はね、ビルに、女がいるの」
「そんなバカな。毎日のように、遊びに来てるって、昨日も言ってたじゃん」
「そうよ。毎日、来るわ」
「でも、彼女の写真を見ちゃったの…」
「ビルの前では、絶対に仮面はとれない。とったら、きっと、ビルは私を捨てる!だから、怖いの、、でもね、もう我慢できない、、。だから、あなたにだけ言うわ」(つづく)
のこと誰にも言えないわ。お花の生徒さんに知られたら、ターイ変。悪い噂でも広がったら、私、どうなることか。ここで、生活していけなくなる‥」
「そうだね」
「昨日もね、、ヒドイかったのよ。私ん家のバスルームから、こそこそと電話してるの。もう、怒りでグラグラよ。声まで出なくなって‥、とりあえず、ベッドルームにかけこんで、何度も大きく呼吸したけ。グラグラしながら、顔を上げると、鏡があった。なんと、ヒドーイ顔だった。あなただから言うけど、こんな顔してたの」
「それで、どうしたの」
「とりあえず、仮面をつけなおしたわ」
「そうだったんだ」
(つづく)